東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1440号 決定
本件異議申立の適否についてみるに、本件配当表に関しては、本件異議申立とは別個に適法に配当異議の訴か提起され、現に係属中であることは、前記のとおりであり、本件異議も右配当異議の訴も、究極の目的としては、抗告人が五〇九八万二九〇〇円の債権を有する配当要求債権者として正当な配当額を得ようとする点において同一の利益を求めるものである。しかし本件異議申立は、配当表の作成に関する執行手続上の瑕疵を主張して、直接これを是正すべき旨の裁判を求め、その申立を認容する裁判が確定すれば、執行裁判所がこれに従い自ら執行手続の是正措置をとることを期待して民事執行法附則三条による改正前の民事訴訟法(以下単に「改正前の民事訴訟法」という。)五四四条に基づいてなされたもので、その審理も、事実の認定には証明を要するが、原則として口頭弁論を開かず、決定の形式で裁判するという簡易な手続によるものであり、配当異議の訴が、訴訟手続において、債権に関する実体上の異議を主張し(かかる実体上の異議を主張するために、更に手続上の瑕疵を主張する場合もあるが、当面の問題については、事情は変らない。)、配当表の変更や新たな配当表の作成を命ずる判決を求めるものであるのとは、その目的性質及び手続構造を異にするものであるから、右執行方法に関する異議と配当異議の訴とが重複して係属することを妨げないというべきである。以上の事柄は、債務者以外の第三者甲が占有する甲所有の有体動産を甲が提出を拒むにもかかわらず差押えた場合における、執行方法に関する異議と第三者異議の訴との関係と対比することができる。それ故、前記配当異議の訴が係属中であるからといって、直ちに本件異議申立がその利益を欠くということはできない。<中略>
抗告人は、執行裁判所の催告書の文言をその主張の根拠とする。しかし、記録によれば、抗告人主張の催告書の(注)4の全文は、「強制競売事件について配当要求を要する債権者(仮差押後の低当権者、仮差押債権者で債権の一部を被保全債権にしているもの等)は、配当要求書を別個に提出して下さい。」というのであり、右(注)4が注意を促している趣旨が、「配当要求を要する債権者は、配当要求書を別個に提出して下さい。」というにあること、すなわち右債権届出書の提出では足りないとしていることは、明らかである。
抗告人は、右注意書には右括弧書の記載があるから、「仮差押前」の抵当権者である抗告人は、債権届出書(これを配当要求書として取扱えば足るから)のほかに配当要求書を提出する必要はないと主張する。しかし、右括弧書の記載をもって配当要求を要する債権者の例示であるとし、「仮差押前」の抵当権者が右例示から外されているとするならば、「仮差押前」の抵当権者は、配当要求を要しない債権者となるのであって(記録によれば、本件競売事件において執行裁判所は、そのような取扱いをしている。)、配当要求を要するが、債権届出書と別個に配当要求書を要しない債権者となるのではない。そして、右括弧書は、例示というよりは、配当要求の要否に関する執行裁判所の取扱方針を示した注意的文言であると解するのが相当である。すなわち、仮差押後の抵当権者が、その被担保債権につき配当要求を要するか否かは議論の存するところであり、一説には、その債権を届出たときは、改正前の民事訴訟法六四八条四号の利害関係人として取扱われるから、とくに配当要求を要しないとの見解もあるので、執行裁判所は、かような見解をとらず、抵当権者であっても、仮差押後のものである場合は、配当要求を要する債権者に当るとの見地に立って取扱うことを示すため、前記括弧書を加えたものと解されるのである。若し、右括弧書が単なる例示ならば、普通債権者を冒頭に掲げる筈である。そして、「仮差押債権者で債権の一部を被保全権利にしているもの」との文言も、同様の意味で注意的なものということができる(最高裁判所昭和三二年(オ)第六七四号、同三五年七月二七日第一小法廷判決、民集一四巻一〇号一八九四頁参照)。抗告人の右主張は、いわれのないものである。
(杉田 中村 松岡)